“貧困削減”としてのマイクロファイナンスに終焉か

 

※個人的な関心を基づき、マイクロファイナンスに関する論文を読み漁っていたところ、非常に有用かつ有益な報告書を見つけたので、今回の記事を書くことにしました。論文紹介は初めての試みで、誤り等あれば修正しますので、易しくご指摘ください。

 

マイクロファイナンスの登場

 

グラミン銀行の元総裁ムハマド・ユヌス氏が「マイクロファイナンス(又はマイクロクレジット)」の提供を始めた1983年から早くも30年以上が経過した。世界(主に途上国)の社会課題の解決を目指す国際開発業界に関心のある人であれば、誰もが一度は「マイクロファイナンス」という言葉を聞いたことがあるだろう。

 

マイクロファイナンスとは、貧困層(特に、貧しい女性)を対象に低利子無担保で投資目的の少額ローンを提供することで貧困層の貧困削減を狙う小規模金融のことである。従来の金融スキームでは資産を持たず所得も低くて不安定な高リスク貧困層に対する融資は難しかったものの、ムハマド・ユヌス氏はそれを可能にし、かつ、貧困削減に貢献したとして、2006年にグラミン銀行とムハマド・ユヌス氏に対してノーベル平和賞が与えられた。

 

先日(7月26日)の日本経済新聞では「JICAが米独の政府系金融機関などと共同で、途上国の女性の社会進出を支える金融サービスに投融資するファンドを設立する。」という内容の記事(途上国女性の活躍支援 日米独で小口金融向けファンド)が掲載された。マイクロファイナンスの登場から36年が経った2019年現在においても、その勢いはとどまることを知らない。

 

マイクロファイナンスが直面する壁

 

しかしその一方、世界中の研究者によって、マイクロファイナンスの研究が進められ、その”効果”(つまり、貧困削減)については疑義が呈されてきた。

 

海外のものであれば、

・Duvendack, M. & Palmer-Jones, R. 2011. High Noon for Microfinance Impact Evaluations: Re-investigating the Evidence from Bangladesh. Working Paper 27. Norwich: University of East Anglia.

 

日本のものであれば、

・高野久紀&高橋和志. 2011. マイクロファイナンスの現状と課題:貧困層へのインパクトとプログラム・デザイン. アジア経済, 52(6), 36-74.

 

等がある。

 

マイクロファイナンスに関するエビデンスに完結

 

2019年1月、社会科学分野におけるエビデンスに基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making:EBPM)を推進するキャンベル共同計画(CampbellCollaboration)から、マイクロファイナンスを含む金融包摂(Financial Inclusion)の効果に関するシステマティックレビューを更にまとめ上げたシステマティックレビューが発表された。

 

※システマティックレビューとは、特定の研究対象に関する文献を出来るだけ探索・整理・分析し、その研究対象について明らかになっている事項をまとめ上げるレビューの方法である。

 

この発表は、マイクロファイナンスが”貧困削減”の有効な手段になりえるとして世界中で推進・実施してきた援助団体(国際機関、2国間援助機関、NGOなど)に大きな影響を与えるものだと考えている。それは日本の国際開発業界においても例外ではない。

 

そのため、今回、マイクロファイナンスに対して日本の援助関係者が持つ過剰な期待を払拭するとともに、EBPMを促進することを目的として、マイクロファイナンスに関する効果を中心に同報告書を紹介する。

 

マイクロファイナンスの効果

 

タイトルは、

「Impact of financial inclusion in low- and middle-income countries: a systematic review of reviews」

である。

 

筆者は、英国University of East Anglia所属のMaren Duvendack氏と英国Institute of Development Studies所属のPhilip Mader氏である。両氏ともに、金融包摂又はマイクロファイナンスの研究を長年続けてきた研究者だ。

 

同報告書の目的は、経済/社会/行動/ジェンダーに関連したアウトカムに金融包摂が与える効果(エビデンス)を分析したメタ研究のレビューを通じ、金融包摂に関する最終的なエビデンスを提示するとともに、政策やプロジェクト、実務、研究へ示唆を与えることである。

 

今回の報告書で用いられた研究手順としては、①金融包摂に関する研究の探索、②探し出した研究からクライテリアに当てはまるものを抽出、③抽出した研究のレビューである。下図のとおり、最終的にメタ研究11本が抽出され、それらのレビューが行われた(と言いつつも、実際には、最終段階で除かれた21本のメタ研究に対しても分析を行っている。)。

 

出所:同報告書

 

その結果、収入に対するマイクロファイナンスの効果量として「最小で-0.093、最大で0.22」であることが報告された。Cohen(1969)が設定した基準である「小さな効果:効果量=0.2」を鑑みると、マイクロファイナンスの効果は、小さい又は非常に小さいことが分かるだろう。

 

※ただし、実際には、他の介入の効果量と比して、マイクロファイナンスの効果量がどうなのかを比較検討するのが理想である。

 

加えて、同報告書によれば、より厳密でバイアスの少ない研究ほど、マイクロファイナンスの効果が検出される可能性は低いとのことであった。

 

また、収入以外のアウトカムへの効果はどうだろうか。その点について、以下の結論が導き出されている(※直訳できない等があったため、適宜、開発くんの解釈を加えているので注意が必要である。)。

 

  • 金融サービスが資産/消費に与える効果は、小さく一貫性がない。
  • 女性のエンパワーメントを目的にした金融サービスの効果は、全体的にポジティブであるものの、プログラムの内容/社会規範などの文脈/対象とするエンパワーメントの視点に依存する。
  • 金融サービスが健康/教育に与える効果は、小さい又は無い。
  • 貯蓄の機会へのアクセスは、効果としては小さいものの、より一貫してポジティブな効果をもたらす。

 

以上のことから、世間一般に言われるほど、マイクロファイナンスは貧困削減に変革をもたらすほどの介入でないことが明らかとなった。

 

ちなみに、上記で使用している「マイクロファイナンス」という言葉には、マイクロファイナンス単体だけでなく、microinsurance、microsavings、他の介入(金融に関する研修など)が付随したマイクロファイナンスが含まれている。

 

今後のマイクロファイナンスの行方

 

本稿で紹介した報告書の発表により、”貧困削減”を目的としてマイクロファイナンスを実施することの正当性は主張できなくなった。

 

今後、マイクロファイナンスによる”貧困削減”を謳い文句として寄付金などを集める組織・団体が無くなることを期待したい。なぜなら、”貧困削減”のためにマイクロファイナンスを実施することはリソースを無駄にすることに繋がり、寄付者及び現地裨益者からの期待を裏切ることになるからである。

 

ただし、注意を払っておきたいが、ここで言えることは、あくまでも、マイクロファイナンスは”貧困削減”としての手段としては弱いということであり、マイクロファイナンス自体が役に立たない介入ではないということである。“貧困削減”としての手段であれば、マイクロファイナンス以外の手段を選んだ方が良い可能性が高いということである。

 

このように、狙っているアウトカムに対し、エビデンスを勘案して介入を取捨選択するすべのことをEBPMという。

 

EBPMは海外においても推進派が期待するほど進んでおらず、今後の国際開発業界ではEBPMをどう事業形成に組み込んでいくかが課題となるであろう。

 

日本では、こうしたEBPMどころか、その元となるインパクト評価、さらに元となる事業評価さえ浸透していない様子が見受けられるが、こうした傾向は、世界でEBPMが広がれば広がるほど、日本の国際開発における立場は相対的に低くなっていくと考えられるので、危機感を持って早急に整備されるのを期待している。

 

すでに、そういった類似の現象が、ビジネス界で起きているように。

 

 

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